食塩無添加日記 2018年12月18日
「無塩無糖サミット in おりはし旅館」
―――“塩浸し”から“塩(縁)切り料理”の普及に向けて
上島 弘嗣
京の我が家の向かいに「安井金比羅神社」がある。四国の金比羅神社のお別れであるが、最近は通称“縁切り神社”で有名である。縁結び神社は出雲大社をはじめ全国に多々あるが、縁切り神社は意外とないのか、“彼氏と縁が切れますように”というような願いを書いた絵馬が所狭しと掛けられ、シンボルの縁切り石くぐりは行列ができている。それから、“塩(縁)切り料理”なる言葉を思いついた。
日本は1965年ころ世界一の脳卒中死亡率を有していた。つい半世紀程前のことである。その国民病と言える脳卒中死亡率が、国民の血圧値の低下とともに、1980年を過ぎる頃には、80%も減少し、わが国は世界一の長寿国となった(文献1、2)。
血圧値は高い程、脳卒中発症率・死亡率が高くなる(文献3)。従って、若い時から血圧値が上がらないようにすることが大切である。国民の血圧値の上昇に最も大きな影響を与えていたのは食塩の過剰摂取であったと推測される(文献4)。1950年代の記録では、脳卒中の多発した東北地方での食塩摂取量が一人1日30g程度もあったことが記録されている(文献4)。食塩の摂取量は若い時から少ない方がよい。そのため、世界保健機関(WHO)は2025年までに、世界の人々の食塩摂取量を一人1日あたり5g未満にしようと呼びかけている。現在、国民一人あたりの食塩摂取量は11g程度あり、依然多い。食塩は普通の生活をしていれば、1日2-3gもあれば十分である。国際高血圧学会の会長を歴任された福岡大学医学部名誉教授の荒川規矩男先生は、人間には食塩の摂取量が少なくなっても、それを逃がさない機構が備わっているとして、血圧値の上昇を予防するためには減塩が重要であると広く市民に啓発活動をされてきた(文献5)。
さて、私の食塩無添加食は、来年の3月で丸5年になる。数年前、このブログが縁で鹿児島県の循環器内科医の中尾正一郎先生と知古になった。中尾先生は驚いたことに、無塩無糖食を純子夫人とともに、19年間も実施しておられる。私の比ではない。その中尾先生から、表題にあるような“無塩無糖食”を試食評価する会を「おりはし旅館」に泊まり実施したいので来て下さいとのお招きを受けた。荒川先生ご夫妻もご一緒ですということで、3泊4日、無塩無糖食(食塩と砂糖無添加)料理が中尾先生の友人でおりはし旅館の経営者である鎌田善政社長の応援のもと、柳田国宏料理長の創意工夫を得て実現した。南日本新聞社の記者の方や、栄養素分析を担当された中尾矢央子管理栄養士も参加され、都合10名が試食と評価に当たった(写真1)。
懐石料理を食塩、砂糖無添加で客人に供したのは、おそらく、日本で最初であろうと思われる。さて、その評価は、美しさは当然であるが、味もよく、食事のバランスも絶妙であった。皆さんの印象は、「美味しい」、「これはいける」、というものであった。新聞記者の方は、同僚から、「無塩無糖の料理を仕事とは言え、お気の毒様と言われて来ましたが、とても美味しく、来て良かったと思います」というものであった。夜の懐石料理は、写真2にあるような品書きで、通常の懐石料理として1品ずつ出てきた(写真3)。
朝食は、通常はどの旅館も塩辛いが、写真4の朝食は、無塩無糖の絶品であった。昼食には、中尾純子夫人が、家庭での無塩無糖食を皆さんに提供した。写真5は何時も食べておられるお好み焼きであるが、皆さんの評判も大変よかった。
オムロン社製のナト/カリ比計で測定した私の随時尿のナトリウム/カリウム比の値(mol/mol濃度比)は、家庭での値と殆どかわらず、昼間は1.0未満であった(通常3-4ぐらいはある)。
日本人は依然、“塩浸し”(近くにそのような名前の温泉がある)料理から(写真6)、旅館の料理も含め、“塩(縁)切り料理”が普及し、2025年までにWHOの目標を達成したいものである。そうなれば、国民の血圧はさらに低下し、脳卒中始め、心筋梗塞、その他の動脈硬化性疾患のさらなる減少が実現し、かつ、癌の予防にも貢献すると思われる。
本サミットの詳細は、中尾先生が雑誌「血圧」に書かれる予定であり、私も「栄養と料理」の2019年2月号(1月9日販売)に報告する予定である。
写真1 「おりはし旅館」での夕食の試食会の様子、荒川規矩夫先生ご夫妻、中尾正一郎先生ご夫妻、鎌田義政社長ご夫妻、管理栄養士の中尾矢央子さんら10名。
写真2 2018年11月23日の夕食の無塩無糖(無添加)料理、懐石料理の品書き、おりはし旅館にて。
写真3 大隅牛の燻製、食塩、砂糖無添加、おりはし旅館の11月23日夕食の一品。
写真4 おりはし旅館の11月24日の朝食、無塩無糖(無添加)料理、焼き魚、刺身、揚げ物、ドレッシング付生野菜、とすべてそろっている。
写真5 11月25日の昼食、中尾純子夫人の何時も家庭で作っておられる無塩無糖(無添加)のお好み焼き。削り鰹の風味も良く。
写真6 荒川規矩男先生ご夫妻(中央)、中尾正一郎先生ご夫妻(左)、筆者ら(右)、妙見温泉のおりはし旅館の近くにある、“塩浸温泉龍馬公園”の前にて。“塩浸し”の日常から“塩(縁)切り料理”の普及に向けて頑張ろうの思いを込めて。
文献
- Ueshima H. Explanation for Japanese paradox: Prevention of increase in coronary heart disease and reduction in stroke. J Atheroscler Thromb. 2007;14:278-286.
- Ueshima H, et al. Cardiovascular disease and risk factors in Asia: A selected review. Circulation. 2008; 118:2702-2709.
- NIPPON DATA Research Group. Risk assessment chart for death from cardiovascular disease based on a 19-year follow-up study of a Japanese representative population: NIPPON DATA80. Cir J.2006;70:1249-1255.
- 上島弘嗣.減塩は有害とする論文への批判:減塩の重要性はゆるがない.医学のあゆみ.2012;241:1103-1107.
- 荒川規矩男先生の「塩を減らそうプロジェクト」. 日本生活習慣病予防協会ホームペイジ、2010年1月19日の記事、http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2010/000157.php (2018年12月18日アクセス)